感傷的な女たち
「うまく生きる」ために、私が捨ててきたもの
これまで心をたくさん使って物事を受け止め、
それによって怒ったり泣いたり笑ったりしていた私が捨てた
私だけのものだった感受性
幼い頃に住んでいた家の窓から見える学校のプール、
夕暮れの廊下にまばらな同級生の動く影、
校庭のあたりから聞こえる正体のわからない笑い声、
給食の匂い、
初恋の男の子の横顔、
勉強をしているときの浮遊感、
世界の終わりを感じた二段ベッド、
世界にひとりきりだと感じたリビングの真ん中、
愛する猫の大きなエメラルドグリーンの目、そのゆったりとした瞬き
細胞の隅々まで行き渡る自由な冬の風、
笑った人びとの顔、
熱を帯びたあの人との距離感、
さまざまの男の輪郭、目の大きさ、眉毛の形、鼻筋、肩幅と背中、
媚薬のような手、匂い、匂い、匂い、愛、
事象として思い出せても、もうあの頃のように感じることはできない
私自身の全てを使って物事を享受していたかつての私を
置いてけぼりにしたままじょうずに生きている